株式会社プリス

振とう機・振とう培養機 高圧蒸気滅菌装置

コラム#21 「これは発酵食品ではないけれど」

2020.08.03更新

これは発酵食品ではないけれど

これまで、発酵は「微生物の力を利用して食品や食品原料を作ること」と拡大解釈してお話してきました。
今回は、さらに食品以外にも発酵を拡張してみましょう。

衣料品にも発酵!?

〇藍染について

食品と並んで私達の生活に不可欠な衣料品にも発酵は生かされています。
代表的な例は「藍染」です。最近ではあまり身近なものではありませんが、ジャパンブルーとして海外での人気が高いようです。

原料となるアイはタデ科食物で、その葉を発酵させた染料で繊維を染めます。
藍染体験をされた方はご存知でしょうが、藍染の染色液はちょっとドブ臭いです。
それもそのはず、藍の葉を嫌気発酵させるので、硫酸還元菌なんかも生育して硫化水素等の臭い物質が発生します。
温泉臭とか腐った卵の匂いとか言われる、あの香りです。

〇インディゴ

藍染の青色はインディゴ(インジゴとも)と言う物質によるものです。
インディゴは水に溶けませんが、還元されると水溶性に変わり、色もなくなります。
この酸化型で不溶性、還元型で水溶性となる性質を利用して、還元状態で水溶性になったインディゴを繊維に付着させ、空気に晒して酸化させて不溶性にします。
私達の生活環境は酸素に満ちているので、繊維に付いたインディゴは洗濯をしても水に溶け出さないという仕掛けです。
さらに都合の良いことに、還元型インディゴは無色ですが、酸化型になると鮮やかな青色になります。いつもながら、昔の人の知恵はなんとも合理的です。

インディゴの還元には複数の細菌が関与しています。しかも培養液(藍染染色液)はアルカリ性(pH10以上)という、結構珍しい条件です。
沖縄県工業技術センターでは、藍染染色液にいる好アルカリ性細菌を分離して、藍染工場や季節等による違いを研究されています。
もしかすると細菌の種類や数の違いが藍染の色合いにも影響するのかもしれません。

〇ジーンズ

同じインディゴで青色に染められた衣料の代表例はジーンズです。
こちらには微生物の出番はなく、化学合成されたインディゴを用いて染められているのがほとんどでしょう。
米国開拓時代にはインディゴが毒蛇避けや虫避けになると信じられていたために、ジーンズはインディゴブルーになったとの説もあります。(でも、残念ながらインディゴにはそのような効果はありません。)

時は流れて、現代ではブルージーンズを如何に脱色するかに、関心があるようです。
一昔前なら新品ジーンズに漂白剤をかけたり、タワシでこすったりして脱色加工を自前でやっていました。
軽石と一緒に洗濯機に入れるという荒技もあったようです。しかし最近は脱色加工された新品のジーンズが販売されています。
この脱色加工にも「バイオウオッシュ」と呼ばれるものがあり、これには洗剤にも配合されるセルロース分解酵素が使われています。
セルロースはグルコースが重合した代表的な植物繊維です。木材、紙それに綿もセルロースですから、セルロース分解酵素の作用を受けます。
分解力のごく極弱いセルロース分解酵素を使えば、色素や汚れが付着したセルロース分子の一部のみを分解することで、綿繊維をきれいにすることができます。
もちろん繊維強度を損なうこともありません。さらにセルロース分解酵素の働きを上手く調整することで、綿製品の風合いや手触りも変えることができます。

この他にもウールの脱脂(ヒツジの毛は脂まみれ)や糊付けされた布の洗浄等にも酵素が使われています。 そしてこれらの酵素は大半が微生物由来のものであり、遺伝子工学技術で大量に安く作られています。このように私達の周りには発酵食品ばかりではなく、微生物の働きを利用した「発酵衣料品」が結構あるのです。


技術顧問 博士(農学)

茂野 俊也(Toshiya Shigeno