株式会社プリス

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コラム#10 「微生物を分類する(その1:そもそもの話)」

2018.09.20更新

「肉眼で観察できない小さな生物」が微生物の定義です。

そして微生物は地球上のいたるところにいます。私達の体表面や体内はもちろん、深海から成層圏、岩盤中からも微生物が発見されています。

そして、その種類数も膨大です。微生物を除く全生物を合わせても、微生物の種類数には遠く及ばないと考えられています。

もし地球上の全生物のカタログを作ったとしたら、そのほとんどが微生物で埋まってしまうでしょう。

今回は微生物を分類する、そもそもの話を始めましょう。

生物の分類

同種の生物

多種多様な微生物を前にすると、これらをなんとか分類したいと考えるのが人間の性です。
多くの場合、生物の分類は“見た目”と“行動”に基づいて行われます。植物なら葉や花の形等、動物なら体の構造や食べ物の種類等が重要視されます。
そして生殖によって生殖能力がある子孫を残せることが、同種であることの証となります。

別種の生物

ライオンとヒョウの間には、レオポンと呼ばれる交配種が生まれますが、レオポン同士の間には子供が生まれません。
従ってライオンとヒョウは別の種ということになります。
また長い間、地理的に隔離されて異なる特徴を持つようになった2種類の生物も別種として扱われます。
例えばタイワンザルとニホンザル。タイワンザルは、ニホンザルと交雑して生殖能力がある子孫が残せるのですが、生息地(台湾と日本)が海によって隔絶されています。
さらに外見や行動様式も異なっているので、別の種とされます。しかし近年は人間の手で地理的な隔離が壊されてしまいました。
人為的に日本に持ち込まれたタイワンザルがニホンザルと交雑してしまい、純粋なニホンザルが消えるのでは?と心配されています。

微生物の分類

さて、微生物に話を戻しましょう。微生物の分類においては、“見た目”や“行動”があてになりません。

見た目

単純な形の単細胞ですから、多くは球状かソーセージ型です。
中には極めて特徴的な形状をもつものもいますが、やはり少数派です。しかも、その形は培養条件によって変わることがあります。
また体表面に鞭毛という細長い尻尾を持つものもいて、これは結構ユニークな特徴です。
でも鞭毛もちょっとしたショックですぐに抜けてしまいます。鞭毛を見るには、ちょっとした職人芸が必要です。
「生殖によって生殖能力がある子孫が・・」ということも微生物では無意味です。
何しろ生殖せずに細胞分裂で次世代を作ります。カビや酵母等では生殖に似たこともしますが、次世代を作るために必須ではありません。

行動

次に“行動”ですが、微生物は飛んだり走ったりしません(鞭毛で泳ぐヤツは結構いますが)。
このため、どのような化学反応を行うか?が注目されます。どんな物質を分解して栄養に変えるのか、どんな物質(例えば色素)を作るか等です。
分類のためには、かなりの数の化学反応を調べる必要があります。そうなると、何種類が必要なのか?あるいは、どの反応がより分類学的に重要か?という問題が出てきます。
さらに、またしても培養条件によって結果が変わることがあるのです。

遺伝子による分類

こんな調子なので、微生物の分類には専門的な技術と多大な労力が不可欠です。
微生物に対する特許で、長期の裁判が行われた話も多々あります。そこで登場したのが遺伝子による分類です。
全ての生物が持っていて、遺伝子変異が起きていて、でもその変異が生命活動において有利にも不利にもならない。
この様な遺伝子としていくつかの候補が提案されています。その中でも、現在ではタンパク質の合成に関与する細胞内器官“リボゾーム”の遺伝子が広く使われるようになりました。 これにより、従来の生物(微生物のみならず)の分類は大変革を迎えました。

次回はこの辺をもう少し詳しく紹介しましょう。


技術顧問 博士(農学)

茂野 俊也(Toshiya Shigeno