株式会社プリス

振とう機・振とう培養機 高圧蒸気滅菌装置

コラム#8「生物にとって酸素は毒?」

2018.06.27更新

重労働だった麹作り

日本酒や味噌、醤油の原料となる麹は、米、麦、豆等の穀物を蒸したものに麹カビを生育させたものです。
カビは酸素を多く要求します。通常、酸素は空気から供給されるので、カビは穀物の表面(最も空気に近い場所)で活発に生育します。
表面で生育したカビが酸素を消費するため穀物内部、麹の塊の内側あるいは製麹容器の底の方も酸欠となります。
このため麹を作る時は、全体に酸素が供給されるように良く混ぜる必要があります。
機械化されていなかった時代の麹作りは、大変な重労働だったようです。
日本酒や醤油作りでは麹を酵母と共に水に浸して仕込み液とします。味噌の場合はペースト状にして密閉します。
いずれも仕込み液(あるいはペースト)は深い容器(樽とか瓶とか)に入れられるため、空気に触れる面積が小さくなって酸素供給が制限されます。
このようにすることで、麹カビの活動は抑えられ、酵母によるアルコール発酵が促進されます。

酸素は毒?

「嫌気性」と「好気性」

酵母は酸素のない状態(嫌気条件)ではブドウ糖をエタノールにまで分解し、生きるためのエネルギーを生産します(アルコール発酵)。
言ってみれば、エタノールは酵母にとっての老廃物です(酒飲みは、それを好むのですが)。
充分な酸素があれば(好気条件)、酵母はブドウ糖を完全分解してエネルギーを得、水と二酸化炭素を放出します。
このように酸素があってもなくとも生きられる性質を「通性嫌気性」と言います。
酵母以外にも大腸菌も通性嫌気性です。私達のように酸素がないと生活できないのは「好気性」の生物です。

絶対嫌気性だった生命体

逆に嫌気条件でのみ生きられるのは「嫌気性」で、この中には酸素に触れると死んでしまう「絶対嫌気性」の生物も含まれます。
そもそも、最初の生命(微生物)は絶対嫌気性であったと考えられています。
生命誕生は35-40億年位前(地球の年齢は45億年位)で、その当時の地球大気には酸素が含まれていなかったと推定されます。
生命誕生のすぐ後に、光合成(光エネルギーを用いて水を酸素と水素に分解し、生命活動用のエネルギーを得る反応)を行う細菌「シアノバクテリア(ラン藻とも呼ばれますが植物の藻ではありません。)」が現れて、地球大気を大量の酸素で“汚染”して、現在に至っています。
酸素は反応性が高くて何でも酸化してしまうので、多くの生物にとっては基本的には毒です。
その後、酸素に対する耐性(解毒機構)を持つ微生物が登場し、20億年位前にようやく好気性微生物が現れたと考えられています。

他の発酵食品

①ヨーグルト、牛乳、納豆

さて、麹と酵母の二者を利用する日本酒、味噌、醤油は好気・嫌気の両条件を使って作られますが、他の発酵食品はどうでしょう。
例えば、ヨーグルトは液体である牛乳に嫌気性の乳酸菌を加えて作ります。
牛乳は容器に入れたままで特に酸素供給はしません。
納豆は蒸した豆に枯草菌(昔は納豆菌と呼びましたが、現在の分類では枯草菌)を接種して作られます。枯草菌は好気性なので、固体である豆の表面付近で生育します。 麹と似ていますが、カビほど酸素要求が強くないので、製造工程でかき混ぜたりはしません(混ぜたらネバネバで大変かも)。
このように好気性微生物を利用する場合には固体(粒つぶ)状態、反対に液体(あるいはペースト)状態で製造する発酵食品では嫌気性微生物が活躍しています。

②酢

例外的なのが酢です。食酢(酢酸)は好気的な酢酸菌、黒酢(クエン酸)はこれも好気的な黒カビによって作られます。
どちらも発酵物は液体ですが、酢酸菌も黒カビも水面に浮く性質があります。
プカプカ浮くことで常に空気に触れることができるのです。
液体中の微生物に酸素を供給するには液体と空気の接触面積を大きくすることが重要です。
例えば、液体を薄く広げることも効果的です。
食酢を作る研究では長い雨といの様な容器に培養液を流したり、滝の様に培養液をプラスチックブロック等の固形物の表面に伝わらせたり。
ともかく培養液と空気の接触面積を大きくする工夫が試みられています。

プリスの培養機

当社が製造販売している培養機は“振とう培養機”です。
これは培養液の入った容器を回転あるいは往復振とうして、培養液と空気の接触面積を大きくする装置です。
また培養液を入れる容器も多くの研究者によって改良がなされてきました。次回は振とう培養機を用いた好気性微生物の培養について解説します。


技術顧問 博士(農学)

茂野 俊也(Toshiya Shigeno