株式会社プリス

振とう機・振とう培養機 高圧蒸気滅菌装置

コラム#3 微生物でわかる貴方の生態

2017.11.10更新

 

前回は私達が微生物まみれであること、そしてそれが健康に大きく影響していることを紹介しました。
では貴方の持つ微生物はどこから来たのでしょう。

人間が初めて微生物と接触するタイミングや、微生物が人間を含めた生物に与える影響についてお話します。

 

微生物との接触

最初の微生物

人間は胎児として、母体内にあるときは無菌状態です。
出産時に産道を通ることで最初の微生物に接触します。その後、抱かれて授乳を受け。

つまり多くの場合、私達は最初に母親の微生物を受け継ぐことになります。
乳飲み子の段階では、摂取する食品は母乳やミルクくらいですから、腸内細菌が利用できる基質は限られます。
このため腸内細菌の種類も比較的単純です。やがて離乳食など色々なものを食べ始め、さらに周りの大人が持っている微生物を取り込む機会も増えるので腸内細菌も多様になっていきます。

「えっ、そうなの?」と思った方、離乳食の温度をご自分の唇で確かめたことありませんか?あるいは子供に指をしゃぶられた経験は?
このようにして子供は周囲の人間から微生物をもらいます。
子供に限らず、生活を共にする人間間では微生物のやり取りが盛んです。

微生物の伝染

同じ皿や鍋をつつきながらの食事、握手、包容、キス・・・。
ある集団の人間の口の中の微生物を定期的に調べていると、誰と誰が付き合っているとか、別れたとかの生態情報がよくわかるそうです。
そこまで密接でなくとも、同じような食事をしていると腸内細菌の種類も似てきます。
異なる生活環境での微生物の違い

例えば海藻をよく食べる日本人は海藻成分を分解する細菌を持っていると言われます。
またカレーを常食とするパキスタン人の腸内からはターメリックを分解する細菌が見つかります。

人間以外の生物

こんな動物実験があります。
ターメリックを含まない餌で慣らしたマウスは、腸内にターメリック分解細菌がいません。
このマウスに急にターメリック入りの餌を与えると下痢を起こします。
しかしパキスタン人の腸内細菌をあらかじめ接種しておくとターメリック入りの餌でも下痢しなくなります。
旅行先で「水が合わない」とかいってお腹を壊すことがありますが、これも腸内細菌が現地食に対応できないせいかもしれません。

 

生物に与える微生物の影響

コアラの場合

例えばコアラ。ユーカリの葉のみを食べるオーストリア固有の有袋類です。
ユーカリには毒性の物質が含まれているため、コアラ以外の動物が食べることができません。
コアラはこの毒性物質を分解する能力を得ることでユーカリを独占し、食料を確保しているのです。

もちろん毒性物質の分解にも腸内細菌が一役買っています。
その証拠に母コアラは子供に自分の糞を食べさせます。
こうやって毒性物質を分解できる腸内細菌が受け継がれるのです。

ライチョウの場合

この他にも天然記念物ライチョウの例があります。
ライチョウ保護のため、卵を確保して人工飼育することが試されました。
孵化はしたのですが、幼鳥は全て死んでしまいました。
親鳥から腸内細菌を受け継げなかったせいではないかと考えられています。

カメムシの場合

全く同じことがマルカメムシという大豆の害昆虫でも知られています。
マルカメムシは産卵時に卵の脇に自身の糞を詰めたカプセルを残します。
孵化した幼虫はまず母マルカメムシの糞を食べて腸内細菌を受け継ぐという仕掛けです。

ところでマルカメムシに近縁なタイワンマルカメムシは大豆を食べません。
そこでタイワンマルカメムシの糞をマルカメムシの幼虫に与えてみます。
幼虫は普通に成長して卵を産みますが、卵の孵化率が激減します。
つまりきちんと腸内細菌を受け継げないマルカメムシは絶えてしまうということです。

 

微生物との共生

昆虫の場合、もっと進んでいて生存に必要な微生物を自身の細胞内に取り込んでいる例がいくつも知られています。
中には微生物を住まわせるための専用の細胞を持っていることもあり、そこにいる細菌は細胞の外では生育できません。

このような相互に不可欠な関係は「共生」と言います。
昆虫では共生細菌の種類が変わることで、食べる植物の種類が増えることもあります。
生存戦略において腸内細菌や共生細菌は遺伝子と同等に重要なものなのです。

 


さて、私達に身近な微生物をいくつか紹介してきました。
微生物は見えませんが、常に共にいて私達に影響を与えていることはご理解されたでしょうか?

次回はもう少し視野を広げて、普通に目にする風景や物にまつわる微生物のお話です。